特許多腕人間方式
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)悉《コトゴト》ク

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)且|遍《アマネ》ク知ラレタルトコロニシテ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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      1

 ×月×日 雨。
 午前十時、田村町特許事務所に出勤。
 雫の垂れた洋傘をひっさげて、部屋の扉を押して入ったとたんに、応接椅子の上に、腰を下ろしていた見慣れぬ仁が、ただならぬ眼光で、余の方をふりかえった。
 事件依頼の客か。門前雀羅のわが特許事務所としては、ちかごろ珍らしいことだ。
「よう、先生。特許弁理士の加古先生はあんたですな」
 と、客は、余がオーバーをぬぐのを待たせない。
「はい、私は加古ですが……」
「いや、待ちましたぞ、八時からここに来て待っておった。先生、出勤が遅すぎるじゃないですか」
「ああ、いやソノ、出願事件ですかな」
「もう三十分も遅ければ、先生のお宅へ伺おうと考えていたところです。まあ、これでよかった」
 客は、椅子に、再び腰を下ろしたが、そのまわりは、
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