、絵仕のところへいって、
「おい、高木、日比谷公園へいってブランコで遊んでこい」
と、いうと給仕は、
「先生、雨が降っていますよ」
「雨が降っている? そうだったな。じゃあ、ニュースでも見てこい」
と二十五銭くれてやった。給仕は、よろこんで、茶を出すことも忘れて、飛び出した。
「では、どうぞ」
「入口の扉に、鍵をかけられましたか」
「鍵?」
「そうです。重大なる話の途中に、人が入って来ては、困るじゃないですか」
「はあ、なるほど」
実に念の入った客である。余は、すこしくどいと思わぬでもなかったが、感心の方が強かった。扉には、錠をおろした。
「これで、どうぞ」
「ふん、まだどうも安心ならんが、まあ仕方がない」
と、客は、駱駝に似た表情で、しきりにあたりの窓や扉や本棚の蔭を見渡し、
「……とにかく、これから話をする拙者の発明の内容が、第一他へ洩れるようなことがあると、そのときは、承知しませんぞ。五百円ぐらいもらっても何もならん。そのときは、拙者は、あんたの生命を貰う、あんたの生命を……」
弁理士稼業が生命がけの商売であるとは、このときにはじめて気がついた。しかしそれだけ、この商売
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