すもなく、ベッドに寝たままであった。
「ご病気ですか」
 その田方氏は、頭に、妙な頭巾をかぶっていた。婦人がパーマネントのセットのときにかぶるような器械兜に似ていたが、形は、むしろピエロのかぶるように、円錐状をなしていた。そしてどこか、起重機にも似ているし、また感じが、歯科医の使うグラインダー装置に似ているところもあった。
「いや、拙者は病気ではない。寒いときには、こうして寝ながら勉強しているに限ります。なにしろ、石炭も炭もありませんからなあ。しかしあんたがたの来訪を受けたから、マレー語独修第四十一課の途中じゃが、ここでいったんお休みとするか」
 そういって、田方氏は首をちょいと曲げた。すると、とつぜん、頭巾が、がしゃがしゃと動きだし、すっーと長く伸びたかと思うと、その先端が、くるっと曲って本の方へのび、そして本のページを折ると、ばたりと本を閉じた。すると田方氏は、頤をひいた。すると今度は、その機械の腕は、本を持ったまま、すーっと横のテーブルのうえへ持っていって、静かに置いた。
(あれぇ、これが、氏の発明の三本目の腕なんだな)
 余は、息がとまったように思った。
 田方氏は、首を反対の
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