へ連れていかれたり。
「実は、発明者の田方堂十郎氏を、ご住居にお訪ねしたのですが、ご不在でして、結局、代理人たる先生にお願いするのが、最善の得策と考えまして、お願いに上りましたような始末で……」
 と、金巻氏がいえば、後頭氏もこれにかぶせて、
「先生のお力を持ちまして、一時間でも早く、あの権利を譲渡していただきたいのです。先生へは充分御礼をいたします。成功報酬は、千円でも二千円でも出します」
 余は、内心愕いた。とんでもない商売が、世の中には転がっているものだ。弁理士商売は、これは悪くないぞ、もしこれが夢でなければ……。
「ちょっとお待ち下さい」
 と、金巻氏が、後頭氏を抑え、
「その前に、あの特許で作った実物の腕を見せて頂こうじゃありませんか。それを拝見した上でのことに……」
「いや、そんなことを、言っている場合じゃありませんよ。ぐずぐずしていると、他所へ取られてしまう。もし外国人などに買われてしまったら、どうしますか。国防上、由々しき問題だ。すぐ決めましょう」
「しかし。三本目の腕をつける場所が、ちょっと心配になるのでしてナ、背嚢を背負うのに邪魔になったり、駈け足に邪魔になったりす
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