、そのときその弁理士へ百円置いて来たそうですのよ。うちのアパート代を七カ月分も滞らせているのにね。あきれかえってものがいえませんのよ」
「はあ、そうですかな。じゃ、また伺います」
余は、形勢悪しと見て、ただちに退却をした。せっかく田方氏を悦ばせてやろうと訪ねていったのに、行方不明では、がっかりしてしまう。それに、余は、この公告決定とともに、田方氏から、成功報酬として金一百円也を請求する権利があるので、実はそのへんのことも大たのしみにしていったんだが、これではどうも仕様がない、あーあ。
5
×月×日 曇り、また雪ちらちら。
本日も出勤。長蛇逸したる如き金一百円の成功報酬を、今日も机の前に坐って、残念がること、例の如し。
しかるところ、午前十一時ごろ、余は、未知なる二人の紳士の来訪を受けたり。金巻七平氏及び後頭光一氏なり。
余は、心を静めて、両氏を引見した。両氏の用件は、意外にも、先日公告の『多腕人間方式』の権利を買いたしということだった。両氏は、それについて食事でもしながら、懇談したきが故に、ぜひお伴をという。依って余は、両氏の請うがままに身を委せ、築地の某料亭
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