ければならないが、財産権としては、この出願公告の日から、立派に効力を発生するのであった。
 公告期間六十日間に、もし他より特許異議申立てがあれば、これと争わなければならないから、特許登録の日は、先へ伸びる。なるべく、異議申立てのない方がよろしいが、たとえ申立てがあったとしても、こっちは作戦おさおさ怠りなのであるから、ただちに起って、異議申立方を撃滅するであろう。
 公告決定の悦びを、発明者田方堂十郎氏に一刻も早く伝えたかったので、余は事務所の表に錠をかけ、この通知書を懐にして、田方氏を、蒲田×丁目なる氏の止宿しているアパートに訪ねていった。
 ところが、氏には、会えなかった。
 氏は、一カ月ほど前から、ぶらりと出ていったまま、いまだに帰ってこないそうである。アパートの監理人のかみさんは、弱っていた。
「いったいどうして、帰って来ないのですかな」
 と余が尋ねると、かみさんは、
「あの人には、厄介な病気があるんですわ」
「病気? それは、どんな病気?」
「発明気違いなのですの。この間も、なにやら世界的の発明をして、何とかいう弁理士に頼んで、特許出願してもらったといっていました。田方さんは
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