と、鉛筆で、『代印デトッテオキマシタ、ビル管理人』と書いてあった。
 一体何事だろうと、余は、急いで封を切った。すると、意外にも、例の『多腕人間方式』について、審査官からの通知書が入っていたではないか。出願してから、まだ三週間にもならないのに、この通知に接するとは、異数のことである。余は、大いによろこんで、その通知書を読んだ。ところが、これは、出願の拒絶理由通知書であったのである。

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『本願ハ左記理由ニ仍リ拒絶スベキモノト認ム。意見アラバ来ル×月×日迄ニ意見書ヲ提出スベシ』
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 と、あっさり殺し文句があって『左記』のところには、

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『本願ノ要旨ハ、義手ヲ人体ニ添架スルニ在ルモノト認ム。然ルニ本願出願以前、帝国領土内ニ於テ、義手或ハ義足ガ公然製造使用セラレタルコトハ、例エバ明治三十九年東京市下谷区御徒町仁愛堂発行ノ「義手義足型録」ニ依リテ公知ノ事実ナリ、仍リテ本願ハ特許法第一条ニ該当セザルモノト認ム』
[#ここで字下げ終わり]

 と、拒絶理由が述べてあった。
 これで見ると、審査官は、三本腕の要旨を、義手義足の願
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