いと同一視してしまったのである。余は、腹が立った。特許局の役人は、なんという分らず屋であろうか。
余は、その拒絶理由通知書を机の上に置いたまま、二時間あまり、溜息ばかりついていた。時間が経つに従って、審査官に対する向っ腹は引込んで、だんだんと情けなさが、こみあげて来た。これは、なんとかしないといけない。
×月×日 雪なおやまず。
余は、ついに、審査官に面会を求めた。『多腕人間方式』に関して、審査官の蒙を啓かんものと、特許局の階段を踏みならしつつ、三階まで上って来たのである。
応接室に待っていると、係りの神谷審査官が、横手の厚い扉を開いて、現われた。審査官は、余の顔を見るより早く、
「どうも君、困るね。この忙しい中を、あんなものを出願して、われわれをからかうなんて、困るじゃないか」
と渋面を作った。
「いえ、からかうなんて、そんな不真面目な考えはありません。ぜひ、本気でもって、ご審査願いたいのです。早く審査をやっていただいてありがとうございました」
「なんだ、君は本気なのか。いや、それは呆れたものだ。で、今日の用件は、そのことで来たのかね、それとも他の事件で……」
「いえ、あの
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