あやしい動物がねていることはたしかだった。
 だが、ふしぎなことに、二つの目玉は、どこにも見えなかった。
「あの目玉はどこへ行ったんだろう」
 青二は、そばへいって、手さぐりで動物をなでてみた。猫の頭にちがいないものが、たしかに手にさわった。
 しかし目玉は見えなかった。もしや目玉がなくなったのかと思って、青二は片手で動物の頭をおさえ、もう一方の手で目玉をさぐってみた。すると、
「ふうっ」と、動物はあらあらしい声をたてて、座ぶとんからはねあがった。
 そうでもあろう。いきなり目玉へ指をつっこまれたのでは、びっくりする。
 青二の手がひりひり痛《いた》んだ。見ると、血が出ている。今動物のために、ひっかかれたんだ。
 が、このとき青二は、おどろきのあまり、心臓がどきんと大きくうってとまった。それは、なんだか自分の手が、はっきり見えないのだった。ぼんやりとしか見えないのだった。
「どうしたんだろう」さっき青二の母親がいったことばが思い出された。「青二、どうしたの。お前の顔は、かげがうすいよ」と、いわれたのを。
 青二は柱にかかっている鏡《かがみ》の前へいって顔をうつしてみた。
「おゃっ」
 
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