。放送局から夜おそく帰ってくるので、父は朝おそく起きるならわしだった。
だからその朝も、青二は母親といっしょに朝のおぜんについた。茶の間は、台所のとなりで、光線があまりはいらない部屋だった。
「どうしたの、青二。お前の顔は、へんだね。気分でもわるいのかい」
母親が心配そうにきいた。
青二は、べつに気分もわるくなかった。だからそのとおり答えた。
「でもね、青二。どうもへんだよ。なんだかお前の顔は、かげがうすいよ。ぼんやりしているよ」
そういわれても、青二は本気にしなかった。
「お母さんは、あんなことをいっているよ。お母さんの目の方が、今日はどうかしているんでしょう。目がかすんでいるんじゃない」
「あら、そうかしら。もっとも、もう春になりかけているんだから、のぼせるかもしれないからね」
その話は、そのままになった。青二の母親は、朝の用事をまだたくさんもっていたから。青二は二階へあがった。
机の上に、小さい座《ざ》ぶとんがのせてある。その座《ざ》ぶとんの上を見るとまん中がひっこんでいた。そして、ゴムのテープと、赤青のまだらの紐《ひも》が結ばれたままあった。その座ぶとんの上に、例の
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