透明猫
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)崖下《がけした》の
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   崖下《がけした》の道《みち》

 いつも通りなれた崖下を歩いていた青二《せいじ》だった。
 崖の上にはいい住宅がならんでいた。赤い屋根の洋館もすくなくない。
 崖下の道の、崖と反対の方は、雑草《ざっそう》のはえしげった低い堤《つつみ》が下の方へおちこんでいて、その向うに、まっ黒にこげた枕木《まくらぎ》利用の垣《かき》がある。その中にはレールがあって、汽車が走っている。
 青二は、この道を毎日のように往復する。それは放送局に働いている父親のために、夕食のべんとうをとどけるためだった。したがって、青二の通るのは夕方にかぎっていた。
 その日も青二は、べんとうを放送局の裏口の受付にとどけ、守衛の父親から鉛筆を一本おだちんにもらい、それをポケットにいれて、崖下《がけした》の道を引っかえしていったのである。
 あたりはもう、うすぐらくなっていた。
 まだ春は浅く、そしてその日は曇《くも》っていて、西空に密雲がたれこみ、日が早く暮れかけていた。
 青二は、すきな歌を、かたっぱしから口
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