ろいろと考えなやんだ末……青二は、そっと家を出てゆくことにした。
 青二は、わずかの着がえをバスケットに入れ、また片手には、透明猫を入れたふろしき包みをもち、母親に気づかれないうちに、家を出てしまった。
 ただ母親がなげくとかわいそうだと思ったから、
「ぼくは急に旅行をします。心配しないで下さい。そのうちに、かならず帰って来ます。そして、うんとおもしろいおみやげ話をしましょう」
 と、いう遺書を、机の上において去った。

   妙《みょう》な福《ふく》の神《かみ》

 どこというあてもなく、青二は歩きつづけた。
 頭には、スキー帽をかぶり、風よけをふかくおろして顔をかくした。それからオートバイに乗る人がよくかけている風よけ眼鏡をかけた。そのガラスは黒かった。
 くびのところを、マフラーでぐるぐるまいた。くびのあたりを人に見られないためだった。また両手には、手袋をはめた。
 こうして歩いていれば、「あいつは寒がりだな」と思われるぐらいで、とがめられることはなさそうであった。
 歩きながら、どうして世の中にこんな奇怪《きかい》なことがあるのか、またどうしてそれが自分のからだをおそったのであ
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