て、どうするのか」
「毒ガスを使うのです。みていてください」
トニーは、三四人の仲間をつれて、そっと潜水艇の近くにしのびよりました。トニーの手には、手榴弾《てりゅうだん》のような形の毒ガス弾がにぎられています。
「やるから、みんな、用心をして……」
トニーは手をあげて、合図をしました。それから、豆潜水艇のそばによると、蓋のあいだから毒ガス弾を、えいとなげこみました。
「それ、蓋をしろ!」
トニーの二度目の合図で、うしろにしたがっていた数人の大きな男は、豆潜水艇のうえにとびあがると、ちょっと蓋の中に手をさし入れて、つっかい棒をはずし、蓋を上からおさえて、ぴしゃんとしめてしまいました。
「よし、大出来だ。早く、あれをかぶせろ」
トニーの号令で、うしろに待っていたタムソン部長たちの一団は、懐中電灯をふって合図をすると、くらやみの中から、大きなトラックが、あとずさりをしてきました。
そのうえには、大なバスの車体がのっていました。ぎりぎりと音がして、もう一台別のトラックの上にしかけてあった起重機《きじゅうき》(重いものをつりあげる機械のこと)から、鎖《くさり》のついたかぎがおりてきて、バスの車体をつりあげました。そしてその車体を、豆潜水艇のうえに、すっぽりかぶせてしまったのです。
つまり、そのバスは、ちょっとみると、本物のバスのようですが、じつは、車がついていないもので、いわば箱の蓋ばかりのようなものでありました。
豆潜水艇は、外から見ると、まるでバスのようなかたちになりました。
そのうちに、別のトラックが、ぎりぎりと鎖をくりだして、豆潜水艇を、トラックのうえに引きあげました。これはただのトラックではなく、軍隊でよく使っている牽引車《けんいんしゃ》というものと同じで、すばらしい力を出すものでありました。
「よかろう。いそいで、出発しろ」
タムソン部長が命令をくだしたので、豆潜水艇を、バスの車体の中にかくしてつみこんだトラックは、そのまま走りだしました。そしてやみの中にかくれると、どこともなくいってしまいました。
さあ、たいへんなことになりました。毒ガスにみまわれた青木学士と春夫少年は、どうなったでしょうか。そして、豆潜水艇は、どこへもっていかれたのでしょうか。
警戒の目
豆潜水艇をつんだトラックは、いま国道をどんどん西の方へ走っていきます。
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