国道には、お巡《まわ》りさんが、交番の中から、じっと夜の番をしていました。
もし、国道をあやしいものがとおれば、「とまれ!」と命令して、しらべるつもりでありました。
お巡りさんの前を、豆潜水艇をのせたトラックは、すこしもとがめられないで、通りすぎていきました。
その次の交番でも、やはりおなじように、通りすぎました。
なにしろ、お巡りさんが見ても、憲兵《けんぺい》さんが見ても、造船学の大家が見ても、まさかトラックのうえに豆潜水艇がのっていると、気がつくわけがありません。
それもそのはずです。そのトラックの上にあるのは、どう見てもバスとしか見えません。まさかその下に、豆潜水艇がかくれていようなどとは、神さまだって気がつかないでしょう。
トラックは、どんどん国道を西に走りつづけます。
豆潜水艇は、トラックのうえで、ごとんごとんと、ゆれています。
トラックの運転台では、運転手と、その横にのっているトニーという外人とが、英語で話をはじめました。
「トニーの旦那、ちょっとうしろを、みてください」
「なんだって、うしろをみろというのかね」
「なんだか、うしろでごとんごとんといっているが、大丈夫ですかい」
「なに、ごとんごとんといっているって。あ、そうか。ひょっとしたら、豆潜水艇が、車の上からすべりおちそうになったのかもしれない。まてよ、いましらべてやる」
トニーは中腰《ちゅうごし》になって、うしろへ懐中電灯をてらしてみました。
「大丈夫だよ。綱はちゃんとしているよ」
トニーは、バスと車体とをむすびつけている綱のむすび目が、しっかりしているのをみて、安心したのでありました。
そういわれて、運転手は、
「そうですかねえ。しかし、ごとんごとんと、いっていますよ。ふしぎだなあ」
「それは、お前の気のせいだろう」
「そうですかなあ」
運転手の耳には、トニーにはきこえない変な音がかんじるのでしょうか。
しばらくたって、運転手はまたトニーにはなしかけました。
「あ、またきこえた。トニーの旦那、いままた、大きくごっとんと、うごきましたよ。ああ気持がわるい。そのうちに、豆潜水艇が、道のうえに、ころがりおちてしまいますよ。もういちど、よくしらべてください」
「大丈夫だというのになあ」
トニーは、もういちど、綱のむすび目をよくしらべました。しかし、さっきと同じで、べつに
前へ
次へ
全22ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング