豆潜水艇の行方
海野十三

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)機関兵《きかんへい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)潜水艇一|隻《せき》
−−

   世界一の潜水艇


 みなさんは、潜水艇というものを知っていますね。
 潜水艇は、海中ふかくもぐることの出来る船です。わが海軍がもっているのは、潜水艦といいますが、これは世界一のりっぱなものです。潜水艇がりっぱなだけではなく、それにのりくんでいる海軍の士官や水兵さんや機関兵《きかんへい》さんたちもりっぱで、これも世界一です。
 私がこれからお話ししようと思いますのは、「豆」という名をもった小さい潜水艇の話です。
 もっとも、豆潜水艇という名は、この豆潜水艇の発明者であり、これをつくりあげた青木学士がつけた名前ですが、その青木学士と大の仲よしの水上春夫少年《みなかみはるおしょうねん》は、これを豆潜水艇といわないで、ジャガイモ潜水艇といっています。
 ここで、ちょっと二人のこえをおきかせしましょう。二人がいいあっているところは、その豆潜水艇がおいてある青木造船所の中です。
「おい春夫君。君は、この潜水艇のことを、ジャガイモ艇などとわる口をいうが、なぜ、ぼくがいうとおり、豆艇とよばないのかね」
「だって、青木さん。豆というものは、だいたい丸いですよ。ところが、青木さんのつくった潜水艇は、でこぼこしているから豆じゃなくて、ジャガイモですよ」
「でこぼこしているって。なるほど、それはそうだ。舵《かじ》がついていたり、潜望鏡《せんぼうきょう》といって潜水艇の目の役をするものをとりつける台があったり、それから長い鎖《くさり》のついたうきがとりつけてあったり、すこしはでこぼこしているよ。しかしとにかく、海軍の潜水艦にくらべると、たいへん小さい。豆潜水艇の中のひろさは、バスぐらいしかないから、ずいぶん小さいではないか。だから、豆のように小さい潜水艇、つまり豆潜水艇といっていいじゃないか」
「だって、青木さん。ぼくには、でこぼこしているところが、気になるんですよ。どう考えてみても、やっぱりジャガイモ艇だなあ」
「いや、豆潜水艇だよ」
 豆がほんとうか、それともジャガイモがほんとうか。青木学士と春夫君のことばあらそいは、どこまでいっても、きりがつきません。
 だから、そのきまりは、もっとあと
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング