につけることにして、私はここで、二人とも、まだ気がついていない一大事について、皆さんにお話いたしましょう。
皆さん、ここは東京の山の手にある大きな洋館のなかです。
森にかこまれたこの洋館は、たいへんしずかです。
窓のそとは、まっくらな夜です。そして、ほうほうと、森の中からふくろうの鳴いているこえがきこえます。
部屋には、明るく電灯がついています。そして三人の西洋人が、大きな椅子《いす》にこしをかけて、お酒をのみながら、話をしています。
「むずかしいのは、わかっているよ。しかし、われわれはどうしても、命令にしたがって、やるほかない」
三人のうちで、一ばんえらい人が、英語でそういいました。この人は、たいへんやせぎすですが、一ばんりっぱな顔をしています。
「しかしタムソン部長。あれだけ大きいものをもちだすのは、なかなかですよ」
軍人のように、がっちりしたからだをしている西洋人が、両手を一ぱいにひろげました。この人の顔は、酒のためにまっかです。
「スミス君。われわれは今、大きいだの、おもいだの言っていられないのだ。本国の命令で、ぬすめといわれたのだから、ぬすむよりしかたがない。そうじゃないかねえ、トニー君」
と、タムソン部長は、もう一人の、女のようにやさしい顔つきの青年によびかけました。
「はい。部長のおっしゃるとおりです。命令ですから、やるほかありません。早く、どうしてそれをぬすみだすか、その方法をごそうだんしようじゃありませんか」
「いや、トニーの言葉だけれど、いくらぬすむといっても、かりにも潜水艇一|隻《せき》だ。あんな大きなものをぬすめると思っては、まちがいだ」
この話から考えると、三人は潜水艇をぬすむ話をしているのです。そしてその潜水艇というのは、じつはさっきお話しした青木学士のつくった豆潜水艇のことなのでありました。だからこれはたいへんです。
「考えれば、きっといいちえが出てくるものだ。およそ世の中に、人間がちえをしぼって、できないことはない。さあ、三人でちえを出そうじゃないか」
と、タムソン部長は、二人をはげましながら、酒のはいったびんをとりあげて、二人のまえのさかづきに、酒をついでやりました。
毒《どく》ガス弾《だん》
酒をのみながら、ものを考えて、どんなちえが出るでしょうか。とにかくその夜のうちに、タムソンたちは、ついにあ
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