いるのです。これにはおどろきました。
「青木さん、どうしたのですか」
「ああ、春夫君か。どうもへんなんだ。潜望鏡が上らなくなったんだ」
「故障ですか」
「故障にはちがいないが、ふつうの故障とはちがう。三センチばかりは、楽《らく》にあがるが、あとはどうしてもあがらないのだ」
「ふしぎですねえ」
 春夫少年は、小首をかしげて、青木学士のそばへやってきました。学士が、潜望鏡のハンドルをもって、ごっとんごっとんやっているのを、しばらく見ていた春夫少年は、やがてぷっとふきだしました。
「なんだい、笑うなんて」
 青木学士が、きげんのわるいこえでいいました。
「だって青木さん。夜中に潜望鏡を出しても、仕方がないでしょう。なんにも見えないじゃありませんか」
「なにをねぼけているんだ、君は……時計を見たまえ。今は夜じゃないよ。朝の五時ごろなんだぜ」
「えっ、もうそんな時刻ですか。こいつはしまった」
 春夫少年は、腕時計を見ました。なるほどもう五時です。彼は、きまりわる気《げ》に、あたまをかきました。
「よくねむったもんだなあ。まだ夜中だと思っていましたよ」
「ねぼけちゃ、こまるねえ。しかし、こいつはよわった。外が見えないでは、こまるなあ」
 春夫は、心細くなってきました。が、そのとき、気がついたことがありました。
「青木さん。そんなら、海面へうかんで、昇降口をあけたら、どうですか」
「そんなことをしては、危険だよ。先に潜望鏡を出して、あたりに敵のすがたのないことをたしかめた上で、うきあがるようにしなければなあ」
「なるほど、それはそうですね」
 春夫は、またも失敗したかと、顔をあかくしながら、ふと深度計の針を見ました。するとおどろいたことに、深度計は零をさしていました。
「青木さん。この潜水艇は、もう海面へうきあがっているのじゃないのですか」
「そんなことはない」
「だって、これをごらんなさい。深度計の針は、零をさしていますよ」
「そんなはずはない」
 学士は、すぐさま、つよく言いかえしましたが、念のために目をうつしてみますと、これは意外!
「おや、いつの間に、深度が零になってしまったんだろうか。これはますますへんだぞ」
 学士は深度計のガラスを、手でもって、かるくとんとんと叩《たた》いてみました。それは、もしや針がどこかにくっついていて、うごかなくなったのではないかとおもい、針を
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