はずすために、かるい震動をあたえてみたのです。しかし、深度計の針は、あいかわらず、零のところにとまったきりでした。
「これは、ふしぎだ」
青木学士は、深度計のまえに腕組をして、うーむと呻りました。一体、どうしたわけでしょう。
口蓋《ハッチ》開《ひら》き方《かた》
「じょうだんじゃない。この潜水艇は、推進器《すいしんき》がからまわりをしているぞ」
青木学士が、大きなこえをだしました。よほどおどろいたものと見え、学士の顔は、まっかです。
「からまわりって?」
「からまわりというのは、推進器が、水の中でまわっていないで、空気の中でまわっているという意味だ」
「え、空気の中で? すると、この豆潜水艇は、飛行機になって空中をとんでいるというわけですか。すごいなあ、この潜水艇は……」
「おだまり」
学士が、しかりつけました。
「え」
「いくらなんでも、豆潜水艇が飛行機になったりするものか」
「あ、そうでしたね。この艇はジャガイモみたいな形をしているから、とても空中をとべないや」
春夫少年は、つい青木学士にわるいことをいってしまって、気の毒になりました。
しかし、つぎからつぎへと、このせまい豆潜水艇の中に、ふしぎなことがおこるものですから、春夫少年はなんとかして青木学士のため力をかしたいと思い、いろいろ考えるのですが、どうも青木学士にほめられるようなことになりません。
「思いきって、昇降口をあけてみよう」
と、青木学士は、とつぜんいいだしました。
「えっ」
「空中に推進器がでているものとすれば、昇降口をあけても、水ははいってこないわけだ。少しは危険かもしれないが、とにかく外の様子がわからないことには、なにもできやしない」
学士は、ついに決心をしたようです。
「春夫君。君に重大な用をいいつけるよ。昇降口を、用心しながら、そっとひらいてくれたまえ。そしてぼくが、しめろ! といったら、大いそぎでしめるのだよ」
「青木さんは、どうするのですか」
「ぼくか。ぼくは昇降口のわずかの隙間《すきま》から外をのぞくのだ。なにが見えるか、のぞいてみよう」
「ああ、あるほど、ぼくは大役ですね」
さあ、たいへんなことになってしまいました。へたをやれば豆潜水艇は、ここでぶくぶくと沈んでしまうかもしれません。春夫少年は、昇降口をひらくハンドルにつきました。
「よろしい、口蓋《ハ
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