年にやすむようすすめました。
「じゃあねますが、この豆潜水艇に、なにかかわったことがあれば、すぐおこしてくださいね。ぼくだって、これでなかなか役にたちますよ。航海のことは、海洋少年団にいたとき、一通りならったのですからね」
「わかったわかった。早くねたまえ」
そこで春夫少年は、すこしきゅうくつですが、防毒面をかぶったまま、きかいときかいの間に毛布をしいて、その中にもぐりこみました。やがて、その日のつかれが一度に出て、春夫は大きないびきをかいて、ねむってしまいました。
青木学士は、そのありさまを、にこにこわらいながら見ていましたが、春夫がすっかりねむってしまうと、彼はひとりで配電盤《はいでんばん》の前にたち、受話器を頭にかけ、水中|聴音機《ちょうおんき》のスウィッチを入れました。そして目盛盤《めもりばん》をしきりに右に左にまわしてみながら、なにごとかをうかがっているようでありました。その顔は、しんけんに見えました。
しばらくして、学士が、ほっとためいきをつくのがきこえました。
「もう、よかろう。エデン号は、よほど向うにはなれているから……」
学士は、別のスウィッチを入れました。すると、ごとごとと音がして、ポンプがまわりだしました。それから、しゅう、しゅうと音がして、酸素ガスが鉄管から出てきました。そんなことが三十分ほどもつづいているうちに、室内の毒ガスは、きれいに洗いきよめられてしまいました。
学士は、そこで防毒面をとりました。
「大丈夫だ」
学士は、うなずきました。そしてこんどはよくねむっている春夫少年のそばによって、防毒面をぬがせてやりました。春夫のひたいや、鼻のあたまには、玉のようなあせがふきでていました。学士は、ハンカチーフを出して、それを念入りにふいてやりました。
「さあ、これでいいだろう。では、こっちもしばらくねむるとしようか」
学士は、ひとりごとをいって、椅子《いす》にこしをかけ、配電盤のまえの机に両ひじをつき、顔を腕のうえにのせました。
やがて、学士もまた、ぐうぐうといびきをかきはじめ、ゆめ路《じ》をたどったのでありました。
深度零《しんどれい》
春夫少年は、ふと目がさめました。なにか大きなもの音をきいたように思いました。毛布から出て、むくむくと起きあがってみますと、青木学士が、潜望鏡にとりついて、うんうん呻《うな》って
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