が、古いものは古いほど安心して使える、といわれるが、なるほど尤《もっと》もな話だなあ」
忠魂塔
その当時、極東には国際問題をめぐって、ただならぬ暗雲が立ちこめていた。
中国大陸には、大きな戦争が続いていたし、その戦争に捲《ま》きこまれていないいくつかの大国も、てんでに武装戦備を整えて、いつでも戦雲渦巻くその中心へ向って進撃できるように、すっかり準備は出来上っていた。
従ってわが東京における諸外国大使の動きも非常に活溌であって、或る物識《ものし》りの故老の言葉を借りると、欧洲大戦当時、ロンドンにおける外交戦の多彩活況も、これには遠くおよばないそうである。
中でも、国民の注目を一番強く集めていたのは、老獪《ろうかい》なる外交ぶりをもって聞える某大国であった。
日中戦争が始まって間もなく、既にもうこの某大国の動向が、国民の注目を惹《ひ》いたものであるが、その当時はどっちかというと、中国の方に相当積極的な同情を示していた。ところがその後、わが日本軍が各地に輝かしい戦績をおさめ、極東のことに関しては日本の同意なしには何一つやれないような事態となったと知るや、某大国はいちは
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