りお前さんに儲《もう》けさせようというんだ。実はね、ま、こっちへ来なさい」
 と五郎造は正木正太を病院の廊下へ連れだした。深夜のこととて他に面会人も歩いていず、そのあたりは湖水の底のようにしーんと鎮《しず》まりかえっていた。
「こいつは他言《たごん》して貰《もら》っちゃ困る。お前さんだから、信用してうちあけるんだが――」
 と前提して、五郎造親方は、いまやりかかっている或る秘密の土木工事があって、そこへ働きにゆく気はないか、なにしろ人員は厳選してある上に、一人足りなくても先方から喧《やかま》しくいわれるのだ。今夜吉治が怪我をしてしまったため、明朝は左官が一人足りなくなる。そのために先方からどんな苦情をうけるかと思うと、彼は気が気でないのだと包み隠さずにいって、この寒中《かんちゅう》に額《ひたい》にびっしょりとかいた汗を手巾《ハンカチ》で拭《ぬぐ》った。
「幸いお前さんが、左官をやれるというから、これはもっけのことだ。これも因縁《いんねん》だと思うから、一つやって見ては」
「でも、なんだか気味がわるいですね。秘密の工事なんて」
「いや、そう思うだけのことで、やっていることは普通の工事なん
前へ 次へ
全42ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング