れほど云って置いたのに、これじゃしようがないじゃないか」
 と見舞いに来たのか、叱《しか》りに来たのか分らない親方五郎造だった。
「親方、当人は相当ひどい怪我をしているんですよ。それに私が通りかからなきゃ、命を落とすところだったんです。あまりガミガミ云っちゃ可哀《かわい》そうですよ」
 と、隅に腰を下ろしていた髭蓬々《ひげぼうぼう》の男がいった。彼は病院で借りたのらしい白いネルの病衣《びょうい》を二枚重ねて着ていた。
「おお、お前さんでしたね、わしのところへ知らせて下すったのは。そして吉も助けてもらって、どうも今度は、たいへん御厄介になって済みませんです」
「いや、なんでもありゃしません」
「いずれ後から、御礼はいたします」
「その御心配には及びませんよ」
 そういったこの男の言葉は、偽《いつわ》りがなかった。自分で抛《な》げこんで置いて、自分で助けたんだから、礼をされる筋合《すじあい》はない筈だった。
 五郎造は、病人の枕許でひどく弱ったらしい顔をしていた。それは病人の容態《ようだい》に対する心配だけではないように思われた。
「……ちょっ、仕様《しよう》がねえやつだ。これじゃ云訳《い
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