秘密工事


「わしんとこの吉が御厄介《ごやっかい》になっとりますそうで、――」
 と、シンプソン病院の受付に、真青《まっさお》になってとびこんで来た五十がらみの請負師《うけおいし》らしい男があった。
「誰方《どなた》でございますか」
 と、肉づきのいい看護婦が、憎いほど落ちつき払って聞いた。
「えっ」と五十男は気をのまれた形であったが、「わしは土木工事の請負をやっている熊谷五郎造《くまがいごろぞう》です。うちの若い者の吉――というと本名は原口吉治《はらぐちきちじ》てえんですが、どこかで怪我をして、誰方やらに助けてもらって、こっちに御厄介になっていると聞きましたが……」
 すると看護婦は、軽くうなずいて、
「どうぞお上り下さいまし」
 といった。
 原口吉治は、ベッドの上にうんうん唸《うな》っていた。
 親方の声を聞くと、さすがにちょっと唸り声をやめたが、しばらくすると、またたまらなくなって前よりひどく唸りだした。
「どうしたんだ、吉。だからあれくらい云っといたじゃねえか。酒を呑みあるいちゃいけない。もし呑むんだったら、わしの家で呑め、それなら間違いもなくて済《す》むからと、あ
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