りとした大攻城砲であった。
 なんのための攻城砲か。まさかこの建物の中に、巨砲が据えられるとは気がつかなかった。五郎造でなくても、誰でもこれには腰をぬかすであろう。
 巨砲の蔭から、士官が三人ばかり姿を現わした。
「おおっ」
 五郎造は全身をぴりぴりと慄《ふる》わせた。
 彼の三人の士官こそは、見紛《みまが》うかたなく某大国の海軍士官であった。五郎造は新聞紙上に、ニュース映画に、またS公園における忠魂塔除幕式の日に、その某大国将兵の制服をいくどとなく見て知っていたのである。
(夢を見ているのではないか)
 と疑って、太股《ふともも》をぎゅっとつねってみたが、やはり痛い。だからこれは夢ではない。
 夢ではないとしたら、この場の有様は、なんという戦慄《せんりつ》すべきことではないか。
 砲架の上を歩いていた士官は、松監督をさし招くと、なにごとか命令した。
 松監督は畏《かしこ》まって、五郎造のところへ飛んできた。
「おい、やり直しの仕事があるんだ。大急ぎでやってくれ。なに立てないって。そんなことでどうするんだ。じゃあ、こうしてやろう」
 と、靴の先で、五郎造の腰骨《こしぼね》をいやというほ
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