ど蹴上げた。
五郎造は憤怒《ふんぬ》のあまり、ふらふらと立ちあがることに成功した。
「おう監督さん。おれたちは今まで黙って仕事をしていたが、この大砲はどこの国のものなんだね」
と、彼はぶるぶる慄える指さきで巨砲を指した。
「なんだ。今ごろになって、そんなことを聞くのか。分っているじゃないか。これは日本の大砲じゃないよ」
「ふむ、するとどこかの国の大砲だな。家の中にこんな秘密の砲台を拵《こしら》えて、一体どうする気だ」
「そんなことを俺が知るものかい。俺もお前と同じように、傭《やと》われている身分だよ。なんでもいいから、お金を下さる御主人さまのいいつけ通りにしていれば間違いはないんだ」
「うむ、やっぱりそうか。じゃ、貴様も使われているんだな。俺はもう今から仕事をしないぞ。日本の国内にこんな物騒《ぶっそう》なものを据えつけるような卑怯な国の人間に、いい具合にこきつかわれてたまるものか」
「なんでもいいから早くやれ、さもないとお前の生命《いのち》は無いぞ。ぐずぐずすればこっちの生命まで危いわ」
松監督はしきりに五郎造をつっつくが、五郎造はもうなんといっても云うことを聞かなかった。
砲
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