授に面会して、携帯用の自記地震計の貸与方《たいよかた》を願いいでた。教授は事情を聞いて、快《こころよ》く教室にあるだけのものを貸してくれた上、数人の助手までつけてくれることになった。
 帆村の眼は、久しぶりに生々《いきいき》と輝いた。彼はこの自記地震計をもって、かのとんとんとんととんという不整な地響のする地点を探しあてるつもりだった。もちろんそれはまず某大国関係の建物のある地域から始めてゆくことに考えていたが、それにしても彼は、まず真先にこの地震計を据《す》えつけたい或る一つの場所を胸の中に秘めていた。


   東京要塞


 五郎造親方は、この頃になって、脱《のが》れられない自分の運命を悟《さと》るようになった。
 始めは、いい儲《もう》けばなしとばかりに、何の気もなく手をつけた仕事だったが、一週間も前から、彼はこの仕事の性質の容易ならぬことに気がついていた。身の危険をも感じないではなかったが、今となってはもうどうにもならない。一行六人は、牢獄のなかに拘禁《こうきん》されているのも同然の姿だった。
 大体の工事が済んで、左官の仕事はもうあまり要《い》らなくなった。それだのに、誰が頼
前へ 次へ
全42ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング