かもしれないという話だった。
 とにかく大きな魚が逃げた。
 この上は、夜に入って、五郎造親方が帰宅するところを捕《とら》えて、これを説諭《せつゆ》するほかない。お前も日本人だろうが、某大国に雇われているのを知らないわけじゃなかろう。そんならあの工事場の秘密を知っているかぎり打ち明けろ、などと責《せ》めるより外《ほか》はないのだ。
 ところが、物事がうまく行かないときは、どこまでも失敗がつづいた。というのは、五郎造がその夜とうとう帰宅しなかったことである。
 尤《もっと》もその夜ふけ、家には速達が届いた。それには五郎造の筆蹟《ひっせき》でもって、工事の都合で当分向うへ泊りこむから心配するなと書いてあった。
 奇怪なることである。どこから知れたことか分らないが、とにかく向うでは気がついて職人たちを帰宅させないことにしたのだ。そうなると、こっちの捜索は殆ど絶望というほかない。
「うーむ、失敗も失敗も、大失敗をやってしまった」
 帆村探偵は、頭を圧《おさ》えて懊悩《おうのう》したが、もはやどうにもならなかった。
 そうかといって、これほどの大事件を、このまま捨てて置くわけにはゆかなかった。官
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