肝腎《かんじん》の五郎造親方さえ顔を見せなかった。
「これは失敗《しま》った」
 帆村が叫んだ。もう遅かった。敵はすっかり勘づいてしまったらしい。
 仕方なく私服刑事の一隊に命令をさずけて、トラックの入っている筈の倉庫の中を覗《のぞ》かせたが、そんなものは入っていないということが分ったばかりで、何の足《た》しにもならなかった。
 どうして帆村のことが分ったのだろう。
 シンプソン病院に電話をかけて、怪我人原口吉治の様子をたずねると、看護婦が電話口に現れて、あの方なら昨夜御退院になりましたという。愕《おどろ》いて聞きかえしたが、全くそのとおりだった。引取人はと聞けば、どうやら親方の五郎造らしく思われた。
 貴重なる捜索網が、ぷつんと破れてしまった形だった。帆村は地団駄《じだんだ》ふんで口惜《くや》しがったが、もうどうすることも出来ない。
 とりあえずこの大事件を大官に報告して、指揮を仰《あお》いだ。
 怪我人の原口吉治が、他の病院に入っているかも知れないというので、京浜地方に亘って調べてみたが、得るところがなかった。シンプソン病院では、それほど大した怪我でなかったから、入院しないでもいい
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