の監督は日本人じゃないのかい」
「中国人ですよ。浴場にいる女も、やはり中国人だと思います」
「じゃ、それは中国人の工場でもあるのかね」
「いや、臭いというやつは、もっともっと複雑です。あの場所の匂いというのがあります。それはどうも、あのチョコレート色の塗料のせいだと思いますが、これは些《いささ》か僕の自信のある研究なんですが、あの建物は某大国関係のものだと思いますよ」
「そうか、某大国か」と大官は大きく肯《うなず》いた。
「それは偉大な発見だが、しかし惜《お》しいことに、この場所が分らない」
「場所は分らぬことはないと思います。明日僕の後を誰かにつけさせ、箱自動車の後を追跡すればいいではありませんか」
「なるほど、そうやればいいわけだね」
大官は莞爾《かんじ》と笑った。
自記地震計
その翌朝のことだった。
帆村探偵はまた左官の道具と弁当箱とをさげて、南千住の終点へいった。
私服刑事からなる別動隊は、帆村の行動を遠方からじっと見守っている。
定刻の午前六時になった。
「変だなあ、誰も来ないじゃないか」
定刻になっても、昨日の顔ぶれは誰一人として集って来なかった。
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