。しかし僕はあの建物のが、すくなくとも我が警備関係のものではない証拠をつきとめたのです」
「ほほう、それはよかった。で、その証拠というのは、一体どんなものだ」
大官は眼鏡ごしに、ちらと黒眼を動かした。
「その証拠というのは、臭いなんです」
「えっ、臭いとは」
「臭いというものについて、一般の人はわりあい不注意ですよ。しかし臭いの研究というものは莫迦にならぬものです。日本人が寄れば、なんとなく沢庵《たくあん》くさいといわれます。これはつまり日本人の身体からは、食物の特殊性からくる独特の臭いが発散しているのです。日本人同士では、お互《たがい》に同じ沢庵臭をもっているのでそれと分りませんが、外国人にはそれがたいへんよく匂う」
「うむ、なるほど。で、君は例の仕事場でもって、何か特別の臭いを嗅ぎつけたのかね」
「そうです。僕はトラックを下りて、廊下をひったてられてゆくときに、早くもその独得の臭いに気がつきました。浴場で着物を着がえたりするときにも気がつきました。それから監督の傍によってもその臭いが感ぜられました。断じてあの場所は、日本人の経営している場所ではありません」
「それは大変だ。でもそ
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