が厳重なので控えました」
「爪の間に入れるとか、頭髪の中にこぼすとか、なんとかいい方法がありそうなものじゃないか」
「そんなことは向うで百も承知ですよ。いよいよ仕事が終ったというときには、僕たちは強制的に風呂の中に入れられてしまうのです。その風呂には、女がいましてね。僕たちの頭のてっぺんから足の爪まですっかり洗ってくれるのです。爪はきれいに截《き》った上、御丁寧にブラッシュをかけるという始末です。外へ出ると、服はすっかり着がえさせられます。履物《はきもの》やマットまで変るのです。恐らく厳重を極《きわ》めていますよ」
「ふーむ、莫迦《ばか》に細心にやっているんだね」
 大官は心から感嘆している様子だった。
「ねえ帆村君。これはあまり大きな声でいえないことだが、君がいま行っている仕事場は、ひょっとすると何かわが警備関係の防空室とかいう筋合のものではないのかね」
「ええ、それは――」
「もしそうだとすると、君は自国の機密建物を調べていることになって、大損《おおぞん》をするよ」
「そうです。貴官《あなた》の仰有《おっしゃ》るとおりの疑問を、僕も持ちました。僕も実は最初からそれを考えていたんです
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