にとりかかった。
帆村の仕事は、米《べい》さんという一人の左官について、一緒に床に特殊の漆喰《しっくい》を塗ることだった。
それとなく辺りを窺《うかが》うと、この室内には一行六人の外に彼等を連れてきた逞《たくま》しい髭面《ひげづら》の番人が一人、そのほかにこの工場の人らしい職工ズボンを履《は》いた男が三人いて、こっちの仕事ぶりをじっと監視していた。
五郎造はこの三人の男のことを、松監督さん、竹監督さん、梅監督さんと呼んでいたが、もちろんそれはこの中での符牒《ふちょう》であるにちがいなかった。
さあ、ここが帆村のためには重大な戦場なのであった。このがらんとした亜鉛《トタン》屋根の工場とも倉庫とも見える建物内こそ、そこに秘められている大秘密をあばきつくすため、彼の智嚢《ちのう》を傾けつくさねばならぬ大戦場だった。しかしこの簡単な建物の中から、一体どんな手懸りが得られるというんだろう。半《なか》ばやりかかった漆喰の床《ゆか》と、チョコレート色の壁と、亜鉛《トタン》板を張った天井と、簡単な鉄の肋材《ろくざい》と、電灯と、たったそれだけの集った場所に過ぎない。果してこの中から、思うような
前へ
次へ
全42ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング