巾を脱ごうとしても脱げない道理だった。
それが済むと、帆村たちは箱型トラックの中に手を執《と》って入れられた。扉がぴちんとしまって、中から鍵がかかる。誰か一人、傭主《やといぬし》の側の番人が乗りこんでゆくらしい。誰も物を云う者がない。
そのうちに、倉庫の戸がぎいぎいと開く音が聞え、それとともにトラックは徐々《じょじょ》に動きだした。いよいよ秘密の場所への旅行が始まったわけであった。
ごとんごとんと揺《ゆ》られながら、帆村はトラックの通りゆく道筋を、一生懸命に暗記しようとつとめた。
右か左かへ曲ると、慣性の理によって、どっちかへ身体がぐぐっと圧《お》されるので、それとわかった。
狭い道では、車はごとごととしきりに揺れたし、広い道へ出ると、すうすうと滑るように走った。
しかし運転手は非常に気をつけているようで、しばらくゆくとスピードが殆んど一定となり、道を曲ることさえなくなった。もちろん十字路のストップは一度も喰《く》わなかった。なんだか郊外の方へ一本道にずんずんと進んでゆくように感ぜられたが、そのうちに数台の消防自動車のサイレンが喧《やかま》しく街を走っているのが聞えたので、
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