のでぽかぽかと滅多《めった》うち。
 ぐたりと伸びるところを、半纏男は足をもってずるずると堀ばたに引張ってゆき、足蹴《あしげ》にしてどーんと堀の中になげこんだ。
 どぼーんと大きな水音が、闇を破って響きわたった。
 ずいぶん乱暴な行為であった。
 しかし警官隊は、林のように鎮まりかえっている。彼等にはこの暴行者がまるで映らないようであった。
 なんという腑《ふ》に落ちないこの場の光景であろうか。
 暴行者の半纏着の男は、堀ばたに立って、じっと水面を見つめていた。五秒、十秒、二十秒……。
 すると、彼は何思ったか、手にしていたアルミの弁当箱をがたんと音をさせて地上に投げだすが早いか、そのまま身を躍らせてどぼーんと堀のなかに飛びこんだ。
「おーい、しっかりしろ」
 彼は片手に半死半生《はんしはんしょう》の酔漢を抱えあげた。そしてすっかり救命者になって、酔漢を助けながら、のそのそと堀から上ってきた。二人とも泥まみれの濡《ぬ》れ鼠《ねずみ》であった。
「おーい、しっかりしろ。どうしたんだ。傷は浅いぞ。いまどこかの病院へつれてってやるからな」
 と、しきりに介抱《かいほう》をするのであった。
 
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