室ではなくて、これはやはり地上に建っている普通の建物にちがいないと断言したというのである。起訴されたデマ犯人は、これについてなお自分の逞《たくま》しい想像を織り交ぜて喋っていたところから、遂に罰金五十円也の申渡しが与えられたと書いてある。
帆村荘六は、この聴取書の話をたいへん面白く思った。そこで彼は一つの計画をたてて活動に入ったのであるが、始めに述べた築地本願寺裏の掘割における活劇も、実はこのデマ事件からの発展なのであって、堀のなかに投げこまれて大怪我をした吉治は、かの浴場で仲間に、ここだけの話をぶちまけた主であり、警官に見て見ぬふりをさせ、皇国の興廃にかかることとはいえ、この吉治に心ならずも傷害を与えた正木正太という左官こそ、とりもなおさず帆村探偵の仮称《かしょう》にちがいなかったのである。
身代りの探偵
左官正太を名乗る帆村探偵は、巧みに吉治の後釜《あとがま》に入りこんだ。
その翌朝は、親方五郎造から注意されたとおり、午前六時すこし前には早くもこの一団の集合場所である南千住《みなみせんじゅ》の終点に突立《つった》っていた。彼の手には左官道具と弁当箱が大事そうに握
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