仲間同士らしい裸の客がわあわあ喋《しゃべ》っているのを、盗み聞きしていた一|浴客《よっきゃく》が、後にまたそれを他の者へ得々として喋っているところを御用となったものであった。
そのデマによると、当夜浴場の流し場で喋っていた本人は、どうやら左官職らしかったという。彼は仲間連中から、どうも手前《てめえ》はこのごろいやに金使いが荒いが、なにか悪いことをやっているんじゃないかと揶揄《からか》われ、彼《か》の男は顔赤らめて云うには、実はここだけの話だが、この頃おれは鳥渡《ちょっと》うまい儲《もう》け仕事にいっているんだ。毎朝或る場所へゆくと、そこで目隠しをしたまま自動車に乗せられ、一時間半も揺《ゆ》られながら引き廻された揚句《あげく》、変な密室のなかに下ろされる。そこで一日左官の仕事をやっていると、夕方にはまた目隠しをしたまま自動車に乗せられ、元の場所へ帰ってくる。この仕事は気味がわるいが一日七円にもなるので、我慢していっているんだと、いささか得意げに語っていたという。
仲間のものは、その男の儲ける金のことよりも、目隠しをしてどこかに連れてゆかれるという猟奇《りょうき》的な話がすっかり気に入
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