うことだった。東京市についていうなら、一体某大国の爆撃機は、どこどこを狙っているのだろうか。破甲弾《はこうだん》はどことどことに落とすつもりか。焼夷弾《しょういだん》はどの位もって来て、どの辺の地区に抛《な》げおとすのであろうか。また毒瓦斯弾《どくガスだん》はいかなる順序で、いかなる時機を狙って撒《ま》くのであろうかなどいうことが、この際早くわかっていなければならない。
 もちろん軍部をはじめ諸官省や諸機関においては、最大の注意力を傾《かたむ》けて、この恐るべき外敵の攻撃を防ぐことを考えている。しかしそれには、敵の手にどんな武器が握られているかを知ることが出来れば、防ぐにも一層便利でもあり、かつ有効な措置がとれるのであった。
 帆村荘六は、某大国の機密を何とかして探りあてたいと、寝食を忘れて狂奔《きょうほん》したが、敵もさる者で、なかなか尻尾をつかませない。流石《さすが》の帆村も、ちと腐《くさ》り気味《ぎみ》でいたところ、ふと彼の注意を惹《ひ》いたデマ罰金事件があった。
 それは警察署の聴取書綴《ききとりしょつづり》のなかから発見したものであったが、事件は築地の或る公衆浴場の流し場で、
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