いたのは、隊員だった。
「氷山と衝突した。全員、甲板へ!」
氷山というのさえ、思いがけないのに、その氷山と衝突して、船は沈みかかっているのであった。
隊員たちは、さっきすこし寒くなったから、汽船は、ニューファウンドランド沖を、加奈陀《カナダ》の方へ北航しかかったのだろうぐらいに思っていたのであった。
「なんだ、もうベーリング海峡へ来ていたのか」
ベーリング海峡ではない。それと反対の方向の南極のそば近くへ来ていたのである。
無名突撃隊をひきいるカールトン中尉は、衝突のときに、はげしく頭部を鉄扉《てっぴ》にぶっつけて、重傷を負っていた。だが、彼はさすがに軍人であった。すぐさまカーテンをさいて、たくましい鉢巻をすると、隊員たちに向って叫んだ。
「皆、おちつくんだ。ここは南極に程近いが、やがてリント少将が、救援隊をよこしてくれるだろう」
「えっ、南極?」
「そうだ、もういっても遅いが南極こそ、われわれ無名突撃隊の目的地だったんだ。われわれは、リント少将の指導下に入って、はじめて、行動の命令をうけるはずであったのだ。それから、われわれは……」
「おーい、ボートはこっちだ。無名突撃隊! 早
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