ではありませんか。リント少将には、なんとかあとでいいわけをすることにして、せめて吹雪のやむまで、船を流すことにしては」
「もう、それは、おそい。リント少将は、大きな賭《かけ》をしているのだ。大アメリカ連邦のために、この大きな賭をしているのだ。われわれもまた、この大きな賭に加わらなければならない。なぜならば……」
「あっ、船長、氷山が……」
「うん、しまった。――無電で、リント少将へ……」
 船長の、悲痛なさけびがおわるか終らないうちに、船の舳《へさき》に、とつぜん山のような氷のかたまりがゆらぐのが見えた。とたんに、大音響とともに、船上にいた乗組員たちは、いっせいに、ばたばたとたおれた。
 警笛《けいてき》が、はげしく鳴った。
 アーク号は、めりめりと音をたてて氷山のうえにのしあげた。
 機関がさけたのであろうか、舷側《げんそく》から、白いスチームが、もうもうとふきだした。
「全員、甲板《かんぱん》へ!」
 吹雪する甲板に、乗組員はとびだした。たたきつけるような氷の風だった。たちまち四五人が、つるつるとすべって、海へおちた。
 無名突撃隊の部屋にも、いちはやく警報がつたわった。
 おどろ
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