く、こっちへ来い!」
 中尉の言葉は途中で切られた。
 隊員は、傾いた甲板をすべりながら、われがちに、ボートの方へ走っていった。
「おちつけ! そのうちに、救助隊が、きっとやってくるぞ!」
 吹雪の中に、中尉の声は、ともすれば、うち消された。
 そのうちに、不幸な事がおこった。
 それは、とつぜん、船内から爆発が起ったことであった。ボイラーの中に冷い海水がとびこんだため、爆発が起ったらしい。
 船は、どーんと、はげしくゆれながら、そのたびに傾斜度《けいしゃど》が加わった。
 ピート一等兵は、パイ軍曹とともに、最後に部屋をでた。彼等二人は、一度部屋を出かけたが、外は吹雪と知って、直ちに引きかえして、防寒服《ぼうかんふく》を出しにかかったのであった。日頃の訓練が、この非常時に、役に立ったのであった。
「パイ軍曹どの。なかなか壮観でありますな」
「なにィ、おい、お前は、くそおちつきに、おちついているじゃないか。われわれは、ここで死ぬかもしれないんだぞ」
「一度死ねば、二度と死にませんよ。ゆるゆるとこの千載一遇《せんざいいちぐう》の壮観を見物しておくのですな」
「ふん、お前と話をしていると、わ
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