脂です」
「鯨は、魚じゃない」
「そうでしたな。元へ! 鯨は、けだものの脂ですから、石油とはちがって、食べる――いや、飲める理屈であります」
「あはァ、それで、飲むつもりで、かくしていたのか」
「はい。ところが、あのとおり、戦車の中で、あっちへ、ごろごろ、こっちへごろごろごろんとやっているうちに、缶がこわれて、鯨油がズボンの中へ、どろどろと流れだして、こ、このていたらく……」
「なんだ、そんなことか。お前は、幸運じゃ」
「軍曹どの。からかっちゃ、いかんです」
「からかっちゃおらん。もしもその脂がお前のからだから流れ出した脂だったら、今頃はどうなっていたと思う」
「へい。どうなっていましたかしら」
「わかっているじゃないか。そんなに脂がぬけ出しちゃ、お前は今頃は冷くなって、死んでいたろう」
「冗談じゃありませんよ。はっくしょん」
さっきから、傍《かたわら》で、あきれ顔で、二人の話を聞いていた沖島速夫が、
「ピート一等兵。早く、前をしめろ。風邪《かぜ》をひくじゃないか」
「へーい、指揮官どの」
氷原
呑気《のんき》な二人のアメリカ兵には、沖島も、すっかり呆《あき》れてしま
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