ぬいた教室以外には、少しも外の様子が見えないようになっていたのであった。船腹に、窓がついていたけれど、この窓さえが、外から、かたく眼ばりをされてあった。まるで、重大犯人を護送していくようなものものしさがあった。
 ピート一等兵は、この部隊の人気者だった。彼は、一番年少の十九歳であったし、そのうえ、彼はなかなか我慢《がまん》づよく、そしてふだんは黙り屋であったけれど、どうかすると、鼻をぶりぶりと、ラッパのようにならして、軍歌や流行唄《はやりうた》などをふいてみせた。出港以来、一番たくさんのページをつかって、こくめいに日記をつけているのも、このピート一等兵であった。
「ねえ、中尉どの。もういいころじゃありませんか。いってくださいよ」
 低いこえで、中尉の袖《そで》をひいたのは、パイ軍曹だった。彼は、一行中の巨人であった。日本でいえば、相撲《すもう》の大関格ぐらいのからだの所有者だった。
「なにをいうんだ。おれが知っているくらいなら、もうとっくの昔に、お前たちに話をしてやったよ。上陸してみないことには、なんにも分らないんだ」
「どうもへんですな。隊長が、われわれの隊の任務について全然知らない
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