たらいてきた戦車なら、そのとき戦死した勇士の幽霊が、出てくるかもしれない。だが、これは新しく出来たばかりの戦車なのである。戦争に出たことは、一度もない。その戦車に、幽霊が出てくるなんて、へんなことだ。
「あははは」
 と、パイ軍曹が、とつぜん笑い出した。
「軍曹どの、なにが、おかしいのですか」
「あははは」
 軍曹の声は、戦車の壁に反射して、妙に、ううーんと後をひいた。ピート一等兵は、肩のうえに、手をかけながら眼を丸くした。
「おい、ピート一等兵。幽霊が出るなんて、嘘《うそ》だよ」
「はあ、嘘ですか」
「つまり、これは生理的の現象だ。いいかね。おれたち二人は、さっきから、同じように頭をがんがんとうったじゃないか。だから、同じように、頭がへんになって、同じように幽霊みたいなものの姿が、見えたというわけだよ」
「ははン、同じように頭がへんになって、同じような幽霊の姿が、頭の中にうかび出たというわけですか。なるほど、そうかもしれませんなあ。軍曹どのと自分とは、前から、双生児のように、なんでも気が合うのですから、そういう場合に、二人の頭の中に、別々に出てくる幽霊が同じ姿をしていても、かくべつふ
前へ 次へ
全117ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング