しぎでないわけですなあ。なるほど、ああなるほど」
「お前のように、臆病《おくびょう》で、びくびくしていると、西瓜《すいか》が、機雷に見えたりするのだ。しっかりしろ。あははは」
 パイ軍曹は、笑った。だが、その笑いごえは、あまり朗《ほがら》かであるというわけにはいかず、どっちかというと、とってつけたような笑いごえだった。
 それでも、ピート一等兵は、やっと、おちついたようであった。
「なあに、自分は、たいていの物にはおどろきませんが、幽霊ばかりは、にが手なんですよ。あのひきずるような足音、そして地の底から呼んでいるようなあのうつろなこえ、あいつは、まっぴら御免《ごめん》ですよ」
 そういいながら、彼はポケットをさぐって、煙草《たばこ》をさがした。だが、煙草は、なかった。
「あれ、煙草がない。しまった、船へ、おいてきた。軍曹どのは、お持ちですか」
「なんだい、煙草か。うん、煙草なら、ここにあるが、まさか、この戦車の中じゃ、油があるから、危くてすえないよ」
「ははあ、なるほど」
 と、ピートは、うらめしそうだ。
「あっ、たいへんだ。軍曹どの」
「なんだ、おどかすない」
「たいへんですよ、これ
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