した」
「そんな、へんなことをいうものじゃないよ。死んだ奴が、どうして生きかえるものか」
「いや、そうではありません。軍曹どの。なぜ、そんなことをいうかと申しますと、さっき自分は死んでいる間に、幽霊を見かけました。幽霊が見えたんです。そのへんを、すーっと歩いていましたよ」
幽霊《ゆうれい》
「おどかすなよ」
と、パイ軍曹は、鉛筆ですじをつけたような細い口髭《くちひげ》をうごかして、いった。
「いえ。ほんとです。軍曹どのとは、全くちがった服装をしていました。幽霊の足音が、ことんことん床を鳴らしたのを、聞いたようですよ」
「ふーん」
パイ軍曹の顔が、なぜか、さっとかわった。そしてピート一等兵を、じっと睨《にら》み据《す》えていたが、やがて口をひらき、
「その幽霊なら、さっき、わしも、ちょっと見たよ」
と、こんどは軍曹が、へんなことをいいだした。
「はあ、軍曹どのも、見たでありますか。じゃあ、夢じゃなくて、本物の幽霊が、この戦車の中に現れたんですね。ううッ」
と、大男のピート一等兵は、肩をすぼめた。戦車の中に、幽霊が現れるなんて、途方《とほう》もない話だ。相当、戦場では
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