れる。扉をあければ、ふんだんに水はありながら、その水は飲めないときている。全く、いじのわるいものである。いや、そんなことよりも、海底におちながら、外部から、海水も侵入せず、空気もくさくならないのが、なにより天の助けと、ありがたく思わなければならない。考えていくと、こうして、二人とも助かっていることが、だんだんふしぎで、そしておそろしくなってくるのだった。
「パイ軍曹どの。一体自分は、只今《ただいま》、生きているのでありますか、それとも死んでしまったのでありましょうか」
「なにッ。死んだ奴《やつ》が、そんなに上手に口がきけるか。また、おれの声が、きこえたりするものか。ばかなことも、やすみやすみいえ」
 と、叱ったものの、軍曹は、ピート一等兵が、とつぜんへんなことをいいだしたので、気味がわるくて仕方がなかった。
「はあ、やっぱり、只今は生きているのでありますか。なるほど」
「只今も、なるほどもないよ。ちと、しっかりしなきゃいけない。びっくりするのも、無理ではないけれど……」
「いや、軍曹どの。自分は、たしかに一度死んだんです。それから再度、生きかえったのです、たしかに、或る期間、死んでいま
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