、競泳には、自信がねえです。誰よりも一等あとで、海水につかることに、はらをきめました」
「一等あとで海水につかるって、一体どうするんだ」
「いや、なに、一等背の高い檣《ほばしら》のうえへ、のぼっちゃうてえわけでさ」
「ばかをいえ。それだから、お前のような陸兵は、役に立たねえというんだ。陸に生《は》えている林檎《りんご》の樹とはちがうぞ。船がどんどん傾いてしまうのだから、一等背の高い檣てえのが、一向《いっこう》当てにならないのさ」
「そうですかい。なるほど、甲板が、いやにお滑《すべ》り台におあつらえ向きになってきましたねえ。ところで、軍曹どの。あなたは、これから一体どうなさるおつもりなんで……」
「今に、リント少将の飛行船かなんかがこの上へとんで来て、エレベーターかなんかを、この甲板におろすだろうと思うんだ。そいつをこうして、待っていようてえわけだ」
「あっはっはっはっ。軍曹どの。ここは、寄席《よせ》の舞台のうえじゃあ、ありませんよ」
 二人の勇士は、死を覚悟していると見え、とんでもないばかばかしい口を、ききあっていた。
 そのときであった。
 二人の立っているところから、そう遠くない後
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