線電話を以《もっ》て、なにか参考になるようなことをいうことが出来るであろう。
 だが、おどろいたのは、パイ軍曹とピート一等兵とであった。沖島速夫の監禁室の前で、二人でいがみあっているところを、急に呼ばれて氷上へ出ると、とたんにおしこむようにして、飛行機にのせられてしまったのである。
 二人は飛行機のうえで、たがいにしっかりつかまってぶるぶるふるえている、だがあいかわらず、口だけはへらない。
「パイ軍曹どの、気分は、どうもありませんか」
「うん。正直なところすこし困っている。なにしろ、おれは地底戦車兵であるが、航空兵ではないのだからなあ。お前はどうか」
「はい、もちろん、自分も軍曹どのと、同じことであります。どうも自分は、スピードの早いものは、にが手なんで……。この飛行機は、落ちませんかな」
「落ちそうだなあ。地底戦車が落ちた場所とちがって、飛行機が落ちれば、われわれの生命はないぞ」
「だから、自分は、戦車の方が好きなんです。ねえ、パイ軍曹どの。一つ指揮官へ無線電話をかけて、われわれ戦車兵を飛行機にのせるのは違法であるから、この五番機だけ、早く元の氷上へかえしてくださいといってくれませんか」
「ふん、それはいい。ではそうしようか」
 とパイ軍曹が、無線の送話器をとりあげようとしたとき、軍曹が耳にかけていた伝声管の中から、機長の、うわずったこえがきこえた。
「敵機が見つかった。戦闘用意!」

 戦闘用意!
「おい、戦闘用意だとよ」
 パイ軍曹は、ピート一等兵の脇腹をついた。
「はあ、戦闘用意ですか。どうすればいいのですかな」
 たよりない二人だった。
 すると伝声管から、また機長のこえが、ひびいてきた。
「早くせんか。ピート一等兵は、後方機銃座へつけ。パイ軍曹は、爆撃座へつけ。早くやれ」
「はい」
 機関銃座へつけといっても、飛行機のうえの射撃には経験のないピート一等兵だった。またパイ軍曹にしてみれば、機上から爆撃なんて、やったことがない。しかし命令とあれば、つくより仕方がない。
 ピート一等兵は、銃座へのぼった。そして始めて、空中のありさまが、はっきり眼にうつった。
 前方を、うつくしく編隊をくんだ十五、六機がとんでいく。それはどうやらさっき基地の上を低空飛行でとびさった日本機らしかった。マック飛行隊は快速を利用して今、ぐんぐんと近づきつつあるのだった。
 マック大尉
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