なった。
 日本機は、大たんな低空飛行をつづけてあっという間にとび去った。
 氷上のアメリカ兵たちは、そのあとをおいかけて、ぽんぽん、たんたんと、小銃や機銃をうちかけた。日本機が、機銃一つ、うたないのに……。
 そんなことで、アメリカ兵の弾丸が、日本機にとどくはずはなかった。
「ちく生《しょう》。日本機め、うまくにげやがった」
「もう一度、とんでこい。そのときは、おれが一発で、うちおとしてやる」
「だが、日本の飛行機は、なにをするつもりだったんだろうか」
「そりゃ、わかっているよ。わが南極派遣軍がなにをしているか、監視のためにやってきたんだ」
 氷上では、アメリカ兵が、つよがりをいったり、いろいろ勝手なことをふいたりしている。
 そのうちに、氷上にいたアメリカ機のエンジンが、はげしい音をたててプロペラをまわしはじめたと思うと、一機二機三機四機――五機の飛行機が、氷上を滑走して天空にまいあがった。
「ああ飛行隊の出動だ。これは、おもしろくなったぞ」
「いやあ、よせばいいのに。五機出発して、五機帰還せずなんてえのはいやだからね」
 アメリカ基地を飛びだした機は、五機だった。いずれも四人のりの偵察機であった。偵察機だけれど、機関砲を持っていれば、機銃もある。小型爆弾も積んでいるというやつで、偵察機と襲撃機との中間みたいな飛行機である。この飛行機は、ことにスピードがうんと出る。時速五百三十キロというから、ものすごいものである。
 さすがにリント少将は、おちついたもので氷上で、一同が色を失ってわいわいさわいでいるときに、いちはやく五機に出動を命じたのであった。指揮者は、マック大尉であった。そして一番機にのっていた。
 五番機は、一等うしろの飛行機であるが、この上に、パイ軍曹とピート一等兵とがのっていた。のっていたというよりも、のせられていたといった方がいい。
 もともとこの二人は、地底戦車兵なのであるが、沖島速夫の事件を知っているのも彼等二人であり、助けだされたたった一台の地底戦車のことを知っているのも彼等二人であり、そこへとつぜんとびだしてきた日本機のあやしい行動についても、なにか地底戦車事件と関係がありそうに思われたので、リント少将は、直ちに彼等二人を探しださせて、むりやりに五番機へのせて出発させたわけである。彼等二人は、指揮官マック大尉に対し、必要なときに、機上から、無
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