「どうした。なぜ、うごかさんのか」
エンジンは、一向かからない。戦車長が、扉をあけて、とびだしてきた。そしておどおどしながら戦車の点検をはじめた。
リント少将は、にがい顔だ。
ちょうどそのとき、一同は、飛行機の爆音を耳にした。
「おや、飛行機だ。いや、相当の数だが、どうしたのだろう」
といっているうちに、とつぜん、氷山の彼方《かなた》から、低空飛行でとびだして来た編隊の飛行機、その数は、およそ十四五機!
「へんだなあ。友軍機なら、この前になにかいってくるはずだ。これは、あやしい。おい、みんな、その場に散れ!」
と、リント少将は、号令をかけた。
とつぜん現れたこの怪飛行隊は、どこの飛行隊であろうか。
怪機の群《むれ》
リント少将は、後日、人に話をしていうのには、少将の生涯のうちで、そのときほど、おどろいたことはなかったそうである。
その場に散れ――と、とっさに号令をかけた少将は、派遣軍の中で、一等おちついていたといえるだろう。しかも、その少将が、すっかりきもをつぶしたといっているのだ。
それもそのはずだった。
ごうごうと、爆音をあげて、少将たちの頭のうえを、すれすれに通り過ぎた十数機の怪飛行機の翼には、日の丸のマークがついていたのであった。
「ああ、あれは、日本の飛行機じゃないか」
「日の丸のマークはついているが、まさか、この南極に、日本の飛行機がやってくるはずはない」
「でも、日の丸がついていれば日本機と思うほかないではないか」
将校の間には、はやくも、いいあらそいがおこった。
ところが、いったん、通りすぎた日本機は、すぐまた、引きかえしてきた。
「おい、高射砲はどうした」
「高射砲なんか、あるものか」
「じゃあ、高射機関銃もないのか」
「それは、どこかにあった」
「どこかにあったじゃ、間に合わない。総員機銃でも小銃でも持って、空をねらえ」
と、氷上では、たいへんなさわぎが、はじまった。なにしろ不意打《ふいうち》の空襲である。今もし、そこで、機上から機銃|掃射《そうしゃ》か、爆弾でもなげつけられれば、南極派遣軍は、たちまち全滅とならなければならなかった。
ゆだん大敵とはよくいった。
さあ、こうなっては、空中をねらったのがいいか。それとも氷のかげで、大の字なりになってたおれていたのがいいのか、わからない。さわぎは、一層大きく
前へ
次へ
全59ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング